契約書はなるべくモジュール化・ひな形化したい。そのためにOneNDAができること。

今回は、「OneNDA」プロジェクト(以下「OneNDA」)をローンチ後すぐにご参画いただいた、ウォンテッドリー株式会社コーポレートチーム・法務担当(取材当時)弁護士の植田貴之様に、参画の理由や背景、契約業務のこれからについてお聞きしました!

目次

OneNDAは契約書のモジュール化の第一歩

——本日は宜しくお願い致します! まずは、どこでOneNDAをご存知になりましたか?

構想自体は以前から酒井さん、早川さんとの雑談の中で聞いており、その後のプレスリリースでローンチを知りました。もともと興味を持っていたので、ローンチ後すぐに参画させて頂きました。

——具体的には、OneNDAのどのような点について興味をお持ちになりましたか?

契約業務を効率的に行うために、契約書はなるべく利用規約のようにモジュール化・ひな形化したいと考えていました。その中でもNDAは、契約の条件の変数が比較的少ないため、モジュール化しやすい類型だと考えていました。OneNDA秘密保持ポリシーという統一規格(以下「統一ポリシー」)のもとで秘密情報をやり取りすることも、契約書のモジュール化の第一歩だと思っています。

——OneNDAのような、第三者が設定した利用規約の内容が当事者間の合意内容に自動的に組み込まれるという仕組みについては、いかがでしょうか?

公平な第三者が合意内容を策定した方が、納得感を感じやすく合意しやすい場面があると思っています。実際、NDAの交渉において、経済産業省が提供するひな形の内容を提案すると合意に至るケースも多いです。
一対一で交渉をしていると、どうしても自社に有利なように契約条件を設定したくなりますし、そこで法務のエゴが出てしまうケースもありますが、ある程度客観的な内容を第三者が提供するという仕組みは、個人的には良いものだと考えています。

効率的な組織体制の構築という観点から、OneNDAが役立つこと

——契約業務の効率化というお話が先ほど出ましたが、植田様にご登壇いただいた3月のウェビナーでも「効率的に少人数で組織を作っていきたい」と発言されていました。具体的には、どういった組織を目指されているのでしょうか。

スケーラビリティとスピードの2点を念頭において組織作りをしています。前者については、SaaS企業としての弊社で言うと、ユーザー企業様が増えても、同じ組織規模でなるべく業務を続けられる、スケーラビリティのある組織にしたいと考えています。一件一件、当事者ごとに異なる内容の契約書をレビューしていると、クライアント企業様が増加した場合にマンパワーを増やさない限り対応出来なくなってしまうので、ある程度その工数を抑えられる形で業務を出来るようにしていきたいという思想を、会社としても個人としても持っています。OneNDAも、そのための手段の1つたりうると考えています。

——業務量が増加した場合には、それに応じて従業員数を増加させるという考え方もあり得るとは思いますが、その前に削減できる工数は削減しよう、ということでしょうか。

そうですね。自分たちの業務量を増やすことが目的ではなく、自分たちの仕事をなるべく効率よく進めて、リソースをかけるべきところに集中するのがベストだという意識のもと働いています。業務の効率化という点は、常にテーマとして持っていますね。

——後者のスピードという点については、いかがでしょうか。

弊社では、サービス導入を決定いただいたユーザー企業様に対して、いかに早くサービス提供を開始するかという点を重視しています。
企業様によっては、サービス提供前にNDAの締結を求められる場合もありますが、OneNDAへの参画によりNDA締結の時間を削減することで取引を高速化できるのであれば、セールスや事業全体にとってメリットが大きいと考えています。

OneNDAを利用した業務フロー

——OneNDAの利用実績や業務フローについては、現状いかがでしょうか。

参画企業の印象は、大手よりも小規模企業の方が多いイメージで、利用実績はまだ無いですね。
参画企業か否かをチェックするというステップでは、取引を開始するときに、都度OneNDA参画企業のリストを見るというフローが一番理想だとは思うのですが、参画企業がまだ多くない今の段階では、参画企業がヒットする確率が低いため、リストの確認をフロー化するところまではいっていないのが現状です。
とはいえ、事前にリストに名前があるかをチェックするだけなので、仮に確認フローを入れたとしても、フローが重くなったり複雑になったりはしないとも思っています。参加リストのスプレッドシートもあるため、確認作業の自動化も十分可能だと考えており、腰を据えてフローを整備すれば、手間や複雑化の観点でも問題はないと思います。

—— 統一ポリシーの内容を個別に修正する必要がある以上、業務フローが複雑になるのではという声もいただいているのですが、御社では統一ポリシーを修正することは想定されていますでしょうか?

もちろん例外はありますが、通常の取引であれば統一ポリシーの内容で修正する箇所はありません。大規模かつ重要な取引ではなければ、基本的にはそのまま利用すると思います。この意味でも、業務フローが複雑化することはないと考えています。
一方で、統一ポリシーの内容をそのまま適用させるかの判断を、最終的には法務が担当する形にしたいとは考えています。開示または受領する情報の性質によって、NDAの条件を変更する必要があるケースも想定されるからです。

——事業部門のメンバーが、法務の判断を仰がずに取引や交渉を開始するといったことは、現状では難しそうということでしょうか。

特定の場面については、ありうる話だと思います。弊社の例でいうと、弊社サービス提供の場面でNDAを締結する場合には、統一ポリシーの内容をそのまま適用させるというオペレーションは考えられると思います。
一方で、NDAの締結は、サービス提供以外の様々な場面で多く求められ、統一ポリシーの内容で秘密情報をやり取りして良いかは、法務が検討する必要があると思っています。そのため、事業部門に統一ポリシー適用の適否の判断を全面的に移管するのは難しいと思っています。とはいえ、統一ポリシーの変更が不要なケースを類型化することもできると思いますので、なるべく効率的なフローを構築していきたいですね。

——情報の管理体制については、いかがでしょうか。

弊社では、OneNDA参加前から、NDAを締結する場面では、情報の開示・受領のどちらの立場でも、現場のメンバーが逐一NDAの条件を確認せずとも秘密情報をやり取りできるような条件にしようと心がけています。取引先ごとにNDAの条件を事細かに変えて情報の管理体制を区別することは、事業部門のメンバーにとっては非現実的だと考えているからです。この点、弊社では、統一ポリシーで要求される程度の情報管理体制は取っておりますので、仮に受領者の立場になったとしてもOneNDAへの参加は問題ないと判断しました。
もちろん、より個別的な管理が要求されるNDAが締結される場面では、管理体制も区別して個別にフォローする必要がありますが、通常の場面では、そのようなフォローなく管理できるようにすることを意識しています。

——OneNDAの利用にあたり、現状、工夫が必要だと感じている点はございますか?

OneNDAは、参加企業間では個別のNDA締結行為なく統一ポリシーの内容が適用される、という仕組みだと思います。便利なのですが、それゆえ参加企業間でNDA締結の記録が残らない点が、社内の契約管理や社内外の監査の便宜を考えた時に、デメリットとしてありうると思っています。特に社内外の第三者に対して、OneNDAの仕組みを説明するのが難しいと感じることがあります。
もちろん私は、統一ポリシーの適用条件は十分理解しているつもりですが、社内外の第三者への説明という観点からは、何かしら合意や締結の記録が残る仕組みがあると便利だと思います。
弊社では現状、スプレッドシートで契約書・契約データを管理していますが、そのような管理方法を採用した場合、そこにはOneNDAを利用したケースは表示されません。そうすると、事業部門や監査部門のメンバーが見たときに、NDAを締結していないと誤認される可能性はあると考えています。

事業の成長とリスクのバランスを調整するのがインハウスの仕事

——OneNDAの本格的な利用が進んだ場合のフローなど、部門を跨ぐ業務フローを新たに構築する場合に意識していることはありますか?

使いにくいフローにしないことですね。弊社でも、契約書レビューのフローを定期的に更新していますが、事業部門・法務部門お互いにとって快適なフローに改善していくことを強く意識しています。
法務業務の効率化ももちろん重要なのですが、会社全体の視点で業務を効率化するという観点からは、事業部門のメンバーに余分な手間を掛けさせないことも重要です。両者の適切なバランスを取ってフローを作り、全体最適を実現することが、効率的な業務フローを浸透させるための一番大事なポイントだと思っています。事業部門のメンバーにもメリットを感じてもらえないと、結局は浸透しませんので。

——事業部門の負担にならないオペレーションを構築するために、どのようなステップで業務フローを構築していくのでしょうか?

通常は、法務の方で業務フローの概要を策定した後、事業部門のメンバーにヒアリングを実施してフィードバックを受けています。このフィードバックを踏まえて、法務の方で業務効率と業務リスク(業務フローの変更や簡略化によって生じるリスク)を天秤にかけて最終判断する、というステップを踏んでいます。
電子契約の締結権限について例を挙げると、契約締結迅速化のために契約締結権限を持っていない従業員にもアカウントを付与して、契約の締結代行を認めるという考え方と、決裁漏れのリスクを防ぐために契約締結権限を持っている従業員のみにアカウントを付与し、他の従業員による締結代行は認めないという考え方があるかと思います。リスクをゼロにするという観点からは後者の方が望ましいですが、契約の類型、取引金額、取引スピードの要請等を考慮したときに、一定のリスクを甘受してでも前者を採用するという考え方は十分あり得ると思います。
現代の法務パーソンは、こうした業務リスクの大きさ(インパクトや発生頻度)を適切に判断しつつ、業務の効率化を進めていくことが求められており、そこに大きな価値があると考えています。リスクをゼロにするのは簡単ですが、事業成長に貢献することも法務の大きなミッションの1つですので、両者のバランスをうまく調整することが重要な仕事の一つだと思います。

——ビジネスマンとして、自社の業務を理解しリスクの大きさを正当に評価しながら事業を効率的に進めることが、法務の価値の1つということですね。OneNDAがその一助になっていれば幸いです。本日はありがとうございました!

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植田様にもご登場いただいたOneNDAウェビナーの書き起こしを公開中です!ぜひご覧ください。

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